5.化粧品販売の特性

化粧品は価格帯によって、大きく高価格、中価格、そして低価格化粧品の3つに分けられ、販売場所によって棲み分けがなされています。高価格帯の化粧品は百貨店、中価格帯はバラエティショップや通販など、そして低価格帯はドラッグストアなどが中心に販売されています。
百貨店の売り場は通常1Fのフロアーですが、百貨店によって事情が異なる場合があります。しかし、基本は店内でトラフィック(客の流れ)の一番多いフロアーとなっています。都内を例にとると、東武百貨店池袋店、小田急百貨店新宿店では2F、三越百貨店銀座店では地下1Fに売り場があります。また、岡山の天満屋百貨店のように1Fと4Fの2フロアーで販売されている場合がありますが、この百貨店は1Fでは高価格帯の化粧品、そして4Fは中価格帯の売り場となっています。
お客様から「化粧品は価格帯の違いによって品質や効能・効果に差があるのでしょうか」と聞かれることがあります。もちろん、高価格帯の化粧品は高価な原料や最新の成分によって製造されているので製造原価が高くなることは必然ですが、問題は「費用対効果」の有無によります。「費用対効果」とは、化粧品を購入するために支払った金額によって得られる効能・効果の大きさを意味します。価格が高ければ間違いなく効果は高いが、高価格に見合うだけの効果の有無は疑問に残るかもしれません。しかし、ここで重要なことは、化粧品という製品はロジカル(論理)だけでは計算されない効果が生じることです。つまり、単純に製品の品質だけではなく販売される状態や環境の状態によって製品効果が増してくることです。誰が、どこで、いつ、なにを、どのようなサービスを提供したかによって効能効果がプラスにもマイナスにもなります。特に、販売を供するビューティアドバイザー(販売員)の存在やブランドのイメージなどが大変に重要な要因となります。また、購入時における、お客様の心理状態やブランドに対する信頼度の有無やその多寡によって大きな違いが生じてます。それが化粧品の特長であって、ある意味では高級アパレルやアクセサリーなどの耐久品とマーケティング戦略が類似していると言えます。
 
化粧品の販売はビューティアドバイザーの存在が非常に重要だと言われる所以はビューティアドバイザーが化粧品の購入意思決定を左右する大きな誘因となるからです。優秀なビューティアドバイザーであるかどうかによって、高級化粧品の効能・効果は必ずしも1+1=2になるとは限りません。ビューティアドバイザーの接客状態によってその数値は∞(無限)の値になります。例えば、皆さんも経験したことがあると思いますが、バケーションから帰ってくると肌が見違えるほどきれいになったり、マッサージで癒やされたり一時的にストレスから解放され自由な時間を過ごすと、精神が癒され肌にプラスの効果が生じます。ビューティアドバイザーが「癒される接客」をお客様に提供できれば最高の美容効果が生まれてきます。従って、どうすればお客様が「癒やされるか」をいつも考えているのがビューティアドバイザーの仕事だといえるでしょう。高級品になればなるほどビューティアドバイザーの質の高さが求められます。
 
百貨店で販売する製品にはいくつかの条件があります。まずは「定価販売」が基本です。価格が安定しないとお客様の「信頼」を失います。価格競争は際限なく続きキリがありません。価格競争の先には自滅があるのみです。実例をあげてみましょう。数年前、ファーストフード市場に価格競争が起きました。ファーストフードの雄であった、当時のマクドナルドの不振は中国の鶏肉の問題が直接の原因になっていますが、実際には、価格競争に巻き込まれたのが主原因でした。価格を下げると集客力があがりますが、元の価格に直すと価格前よりも集客力が大幅に減少してしまいます。集客力が減少したので再び価格を下げると、更に集客力が減少し、負の連鎖が始まり最終的に集客力がゼロになり破産という結末を迎えます。これはマーケティング用語で「価格の弾力性」が無いからで、ブランド・イメージが劣化し信頼、信用を失ったからです。この逆境から立ち直るにはたくさんの時間とコストがかかります。ここ数年のマクドナルドの状態を見れば一目瞭然です。化粧品は絶対に価格競争に巻き込まれてはなりません。
 
化粧品コーナーで見かける販売促進企画に「セット販売」があります。これはお徳用セットで、ある種の値下げですが、その目的は価格面で競争しようと考えて企画されたものではありません。ビューティアドバイザーは「セット販売」の主旨を理解して販売しなければなりません。これはあくまでも「サンプル企画」として理解すべきです。一度試用していただければ品質の良さを理解していただきリピートしていただけると確信しているから実施できます。自社製品に自信がなければできない販売促進企画です。したがって「お安くなっています、お買い求め安くなっています」などと強調するのはタブーで、応酬話法としては、サンプリングの意味を込めて「いろいろ製品を取り揃えています。是非、この機会にご試用なさってください」が適切な話法でしょう。価格を直接訴求せずに、あくまでも試用していただくための「セット販売」と理解しなくてはなりません。サンプリング目的であろうと、値下げは値下げだからといって同一だと理解してはいけません。

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