13. 暇な時間の過ごし方

高校生時代の話ですが、中学校は公立でそれなりに楽しい中学校生活でしたが、2年の夏休みから高校受験の猛勉強がはじまりました。幸いにも都立高校に入学できたのですが、入学すると同時に緊張感が取れてしまったようで、勉強はほとんどせずに部活の毎日でした。その結果、高一の三学期になると成績は最悪の状態になり、ある日、数学の先生が授業中に学生の名前を呼びながら試験の採点用紙を返却しました。名前を呼ばれたので壇上に行くと、先生が大きな声で「山口、何点かわかるか!」「お団子だよ」と言われ、つまり0点なのでした。生まれて初めての経験でした。クラス全員の前で言われ、プライドどころの話ではありません。通常ならばバスを乗り換えて1時間半の距離ですが、その日は、自分に悔しく泣きながら3時間も歩いて帰宅しました。歩きながら、部活を辞めて勉強しようと決心しました。やはり他人に注意されても自分で悟らないと性根が変わりません。それから一心に勉強しだしたのですが、まわりの優秀な生徒にはどうしても追い付きません。一年のブランクを埋めることができません。自己嫌悪です。「どうして追いつかないのか、こんなにも勉強しているのに」と落ち込んでしまう毎日でした。


ある日の下校時の出来事です。その時は気分を変えるために山手線にのって帰宅しました。その車中で成績が抜群の同級生を見かけたのでしばらく遠くから様子を見ていました。すると彼は席に座り参考書を読みだしたのでした。興味があったので、様子をみていると山手線を一周してもなお読んでいました。私ならば急いで帰宅しテレビでも見ている時間です。多分、彼は通学途中だけでなく、試験が終わっても油断せずに遊ばず、テレビも見ずに、トイレでも、就寝する前にも布団の中でも、つまり暇な時には勉強しているに違いがありません。多分、秀才とよばれる人は生まれつきの天才なんかでなく、普段の努力が半端ではないからなのです。私は自分だけが一生懸命勉強していると思っていただけで、同級生は自分以上に勉強をしていることに気が付いていなかったのです。試験前は誰でも勉強しますが、彼は試験が終わっても、暇な時も勉強に集中していたのでした。時間の過ごし方が根本的に異なっています。この発見は私が社会人になった時にも、大いに役立ち貴重な経験となりました。


「暇な時間の過ごし方」、この命題は勉強だけでなく、化粧品の仕事にも同じことが言えます。時間があれば訪店してディスプレーをみたり、現場のビューティアドバイザーの皆さんと情報交換をしていましたが、ある時、遠くから予算未達成のカウンターを見ていました。他店は売上予算を達成しているにもかかわらず、訪店したカウンターは達成できていませんでしたので、なにか問題があるかを探索していました。その時はカウンター周りにお客様がいなく、ビューティアドバイザーが手持ち無沙汰に立っているのが見えました。思わず、不調の理由は、「これだ」と思ったのです。つまり、お客様がいない時のビューティアドバイザーの動きに問題があったのでした。順調なカウンターとの一番の違いは、接客で忙しい時には差はつきませんが、お客様のいない時の動きで差がつくことです。ヒマな時の時間の使い方に違いがありました。ヒマな時に何をするのかで、売上が変わります。ハンドアウトカードの配布、整理整頓、カストマフォロー、テスタースタンド、ディスプレー、モクセールなどなど、すべきことはたくさんあるはずです。手持ち無沙汰に立っている時間はないはずです。暇な時間は忙しくなる時の準備期間だと認識すべきなのです。突然忙しくなって、慌てても能率があがりません。暇な時間と忙しい時間は必ずサイクルになってやってきます。暇と忙しさは必ず交互にやってきます。


カウンター活動における「暇な時間」は「忙しくなるときの準備期間」だと位置づけましたが、これを他に応用してみると重要な命題が考えられます。現在、世界のどこかで戦争が起きています。私たちは平和でありたいと祈りますが、歴史を振り返ってみると、現実は戦争と平和が交互にやってきています。日本の歴史をみると、太平洋戦争後、「令和」を迎える73年間、戦争らしきものはなく平和な時代でした。そこで、「平和」の位置づけを「次の戦争の準備期間」または「次の戦争を延期させる期間」だと考えてみたらどうでしょうか。


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